この記事では翻訳における3つの分野とそれぞれの特徴を解説します。
“翻訳者”と一言で言っても、“何を”翻訳するかによって肩書きも、活躍する場も異なります。
もちろん分野を限定する必要はありませんし、現代ではその境界が曖昧になってきているとも言われるので、“私は絶対にこの分野!!”と幅を狭めるのはもったいないかもしれません。
とはいえ、一般的な分類を理解し、それぞれの違いや特徴を知っておくことは大切です。
翻訳業界への入り口として自分がどれに向いていそうか、どのプロフェッショナルを目指したいかをイメージする材料に本記事がなれば幸いです。
翻訳の仕事の種類
翻訳の仕事は多岐にわたりますが、大きくまとめると3つの分野に分けられると言われています。
外国語で書かれた出版物を日本で出版するために翻訳する「出版翻訳」、ビジネスの場で使われる様々な文書を翻訳する「実務翻訳」、各種の映像素材を翻訳する「映像翻訳」です。
1つ1つ見ていきましょう。
出版翻訳(文芸翻訳)
外国語で書かれた出版物を日本で出版するために翻訳するのが出版翻訳です。
よく、書店に並ぶ本の表紙に「訳=○○」と添えられている本を見かけますよね。自分の名前の載った本が書店に積まれるなんて夢のある分野だと思います。
出版翻訳のプロのことは、翻訳者ではなく、翻訳家と呼ぶことも多いそうです。
出版翻訳のジャンル
大きくは「フィクション」と「ノンフィクション」に分けられます。
「フィクション」は小説、戯曲、詩などを指します。比率としては小説が圧倒的に多く、純文学、ミステリ、SF、ファンタジー、ロマンス、ノベライズ作品(映画やゲームなどの内容を小説にしたもの)などが挙げられます。
「ノンフィクション」の対象は言ってしまえば“フィクション以外の著作全般”です。ビジネス関連書籍から自伝、評伝、実用書、芸術系など・・・分野は多岐にわたり、刊行点数も非常に多いです。専門知識が要求されるものが多く、その分野に長けた実務翻訳者の方が訳すケースもあります。
フィクションとノンフィクション以外にも児童書や雑誌、コミックスなどのジャンル分けがされることもあります。
プロへのルート
何らかの形で業界との接点を掴むことが大事な分野と言われています。
まずは翻訳学校の講師の先生の紹介で下訳やリーディングの仕事をいただいたり、コンテストで賞をとることでプレゼンスを上げたり。
そうして出版社と接点を持ててチャンスがまわってくれば、編集者からの推薦で共訳という形でデビュー!ということも多いようです。
残念ながら、翻訳志望者の多くが憧れる、フィクション翻訳はある程度のつながりと実力が証明されていなければ、仕事が回ってくることはなかなかありません。
その一方で新人や若手が活躍しやすいのはノンフィクションのジャンルです。
刊行点数も多く、市場での回転も速いので流行や販売期間を逃さず、翻訳したい原書のレジュメを作って出版社に持ち込むのも一案です。
※レジュメとはリーディングした原案についてのレポートのことです。A4用紙数枚を目処に、作品の良し悪しを誇張することなく簡潔にまとめるもので、原著の一部を試訳してつける場合もあります。
まずはジャンルを限定せずノンフィクションなどでコツコツと実績を積み、ある程度名前が知られてから、自分の挑戦したいジャンルをアピールしていくというのが現実的なようです。
実務翻訳(産業翻訳)
ビジネスの場で使われる様々な文書を翻訳するのが実務翻訳です。産業翻訳と呼ばれることもあります。
意外と知られていませんが、翻訳市場の9割は実務翻訳と言われています。
プロになるには、ジャンルごとの専門知識を押さえていることはもちろん、リサーチ力、PCスキルも備えている必要がある分野です。
実務翻訳のジャンル
医薬、特許、法務・契約書、金融、広告・マーケティング、IT、工業・技術、ゲームなどなど・・・。
ジャンルは多岐にわたりますが、いずれにしても翻訳する分野における専門知識を有していることが求められ、それぞれのジャンルのルールに則った正確な訳出が求められます。
また、近年ではIT、医薬、特許といった分野で機械翻訳(MT)が導入されることも多く、1から翻訳するというよりもMTの翻訳を手直しするポストエディット(PE)と呼ばれる求人が増えているのも特徴の1つです。
同時に、単純な翻訳力だけでなく、ターゲット言語での文章力や業界・専門知識がより要求される案件も主にビジネスやマーケティングのジャンルで多く求められています。
プロへのルート
すぐにフリーランス翻訳者で独り立ちする前に、翻訳スクールの紹介で翻訳会社のチェッカーになったり、
一般企業や翻訳会社の社内翻訳者やコーディネーターとして経験を積む人が多い分野です。
その後トライアルを受けて翻訳会社に登録してもらうことで、翻訳者としての活動を開始します。
※トライアルとは、翻訳者が翻訳会社に登録を希望する際、当該翻訳者の実力を測るために翻訳会社側が行う試験のこと。
ほかにも「ほんやく検定」など翻訳に関わる資格ものをアピールしたり、海外の通訳翻訳大学院で学び学位を活かして仕事を得るというのも有効と言われています。
実務翻訳では多くの場合、専門的な翻訳支援ツール(CAT:Computer Assisted Translationツール)を使うことが多いので、代表的なTRADOS、Memsource、MemoQ SSTなどに馴染みがあると安心です。
映像翻訳
各種の映像に関わる翻訳が映像翻訳。
関わるメディアの幅は広く、劇場公開映画、DVD・ブルーレイ、テレビ番組、BS・CS放送、インターネット配信動画などが挙げられます。
パッと思いつくのが、映画などについている字幕の翻訳だと思いますが、他にも、吹替翻訳、ボイスオーバー(VO)、素材翻訳などの手法があり、それぞれ手法も異なるので、それらを使い分けながら仕事を進める必要があります。
映像翻訳のジャンル
映画、ドラマ、アニメ、ドキュメンタリー、リアリティもの、情報番組などに加え、企業のPR動画や研修用の動画なども映像翻訳の範疇です。
海外映像といえば映画やテレビドラマがほとんどだった時代から、どんどんバラエティ豊かになっている様子がうかがえます。
ネット配信の素材を翻訳する需要も高まっていることも相まって映像翻訳者が必要とされるフィールドも拡大中と言われています。
プロへのルート
翻訳学校などでスキルを学び、修了後にフリーランス翻訳者としてキャリアをスタートさせる人が多いです。
翻訳学校によっては、映像制作会社や翻訳エージェントを運営していて修了後のプロデビューを支援してくれたり、先生から下訳を頼まれるチャンスがをいただけたりするスクールもあるので、翻訳学校を選ぶ際には修了後のサポートもチェックしたいポイントです。
実務翻訳同様、翻訳会社や制作会社から仕事を受注するためにはトライアルに合格する必要があり、それが1つの登竜門とも言えます。
学校に通わないパターンとしてよくあるのが、映像制作会社や配給会社に勤務し、現場で経験を積んでから独立するパターンです。
最近では実務翻訳の経験を積んだ翻訳者が、専門知識を活かして映像翻訳も始めることも多いようです。
まとめ
いかがでしたか。
今回は、翻訳に興味がある方に向けて翻訳における3つの分野とそれぞれの特徴を紹介しました。
どの分野を目指そうか悩んだとき、アプローチの仕方は何通りもあります。
経験や専門知識を活かす、一番ワクワクする分野に突き進む、市場の規模や状況から選ぶなどなど・・・。
ただ、どの分野を選ぶとしてもベースとなるのは能力は大きく変わりません。
まずは翻訳全般の知識を学びつつ、自分の進みたい道をゆっくり選んでいくというのもいいのではないかなと思います。