翻訳業は一般的には先行投資の少ない職業と言われています。
特に大きな機材を揃えたり、特定の資格が必要だったり、商品の仕入れなどが不要だからです。極論、パソコンと自分の身だけあれば始めることはできるのです。
その中で、唯一と言っていいほどのまとまった投資(翻訳スクールを除く)はパソコンの中に取り込む字幕制作ソフトの費用です。
今回はその購入の必要性について考えてみたいと思います。
SST一括購入から時代は変わりつつある!
これまでは(株)カンバスという会社が提供しているSSTG1シリーズを何十万円もかけて購入し、ドングルと呼ばれるUSBのようなものをパソコンに差し込むことで使えるようになるパターンが主流でした。
というか、プロになるにあたっての必須条件だったと言っても過言ではないでしょう。
しかし、どうやら時代が変わってきているようです。
大きな流れとしては
・SSTだけが選択肢ではなくなった
・字幕制作ソフト業界にもサブスクの波が押し寄せてきている
・独自のシステムを開発し、その使用を指定する動画配信会社も出てきた
などが挙げられます。順番に見ていきましょう。
SSTだけが選択肢ではなくなった
前述のとおり、これまで字幕制作の翻訳者は基本的にSSTG1シリーズを購入し、所有していました。
その大きな理由が「それ以外に選択肢がないから」というものだったでしょう。
特殊な作業を求められる字幕翻訳において、字幕制作ソフトは絶対に必要だけど、その選択肢がSSTG1シリーズしかない。殿様商売だったわけですね。
しかしそれが変わってきています。”字幕制作ソフト”でググると、一番上に出てくるのはFAITHという会社の「Babel」というソフト。SSTは私の検索結果画面では2位でした。
実はこのBabelというソフトは、もともと(株)カンバスで開発をしていた方が独立して作られたものだそうで、当初は権利の問題などで結構揉めたようですが、今は落ち着き、Babelも晴れて字幕制作ソフト業界の仲間入りをしたようです。
アカデミック版を利用させていただきましたが、使い勝手はSSTとほぼ同じ。それでいてSSTと比べてもかなり安いので、じわじわとBabelユーザーも増えてきているとのことでした。
また、プロとして利用するには物足りない部分はありますが、「おこ助」という無料ソフトもあります。学習者のうちはこれで十分でしょう。
このように、昔にはなかった選択肢が増えてきていること、今後も増えるだろうと予想されることは頭にいれておきたいですね。
それぞれのリンクを参考程度に貼っておきます。
(株)カンバス SSTG1シリーズ: https://canvass.co.jp/
(株)フェイス Babel: https://www.babel.style/
(株)ユーフォニア おこ助: https://okosuke.jp/
字幕制作ソフト業界にもサブスクの波が押し寄せてきている
どの制作ソフトを使うかだけではなく、その契約形態をどうするかと言う点においても選択肢が広がっています。
一括でソフト自体を購入するのではなく、必要なタイミングで一定期間のサブスクリプション契約をする、なんていうのも主流となりつつあります。
昔は履歴書で「字幕制作ソフト所有していません」と書いた時点で一気にハードモードになったそうですが、今の時代、そんなことをあえて書く必要ないかもしれませんよね。必要なタイミングでサブスクするのでお気になさらず、という話です。
もちろん、そのソフトを何年使うかによって購入した場合と比べたお得感は変わってきますが、最初に大きなキャッシュアウトがない、今後の未来が分からない中で柔軟に対応できる状態であるというメリットはとても大きいでしょう。
独自のシステムを開発し、その使用を指定する動画配信サービスも出てきた
私はまだ仕事を受注していないので、先生方からお伺いした話になりますが、
大手の動画配信サービスではもうSSTや他のソフトには頼らず、自分たちで独自の翻訳システムを開発して活用しているところもあるそうです。
配信サービス会社としても、統一されたフォーマットでチェックや手直ししやすいだろうし、こちらとしてもわざわざ用意しなくていいので有り難いですよね。
まとめ
いかがでしょうか。この大きな流れは今後も加速すると予想されます。
数年後には、やりとりはクラウド上で完結、字幕制作もそれぞれの独自のソフトを使用し、不足分はサブスク契約で安くソフトを使用する・・・そんな使い分けが当たり前になっているのではないでしょうか。
そう思うと自ずと結論は見えてきますよね。今はまだSST一括購入すべしというような風潮が少し残っているかも知れませんし、そのほうが安心!と言う場合はもちろん購入したら良いと思います。
ただ、なるべく初期費用を抑え、かつ、今後の時代の変遷にも柔軟に対応していきたい、
そんな思いがある場合は急いで決断する必要はないと私は思います。